むかしから、愛情というものを素直に表現することが苦手で、結婚式はそれの最たるもので半ば畏れのようなものを感じています。わたしの中では例えるなら結婚式は、完璧な円です。幸せも愛情も祝福も良いものが等分に存在して、最高の瞬間をつくっている。美しいとおもいます。すばらしいと思います。だからこそ、円が形を変えるのが恐ろしい。時が経って形が変わってしまうのは自然なことでそれは物質的にであったり内面的にであったり。だけれど、その対象が完璧であればあるほどにちいさなほころびもすぐに見えてしまう。
そんな、意固地な考えをもったわたしに大好きな友人からウェディングピローの制作依頼がやってきました。初めて聞いたことばで、どういうものか調べて、もう、これは、わたしにはいちばん不向きなしごとだと思いました。
結婚指輪を新郎と新婦が交換するときにその指輪を乗せてはこぶもの。結婚式のなかでもいちばん美しい瞬間。
まよいました。ことわりたくない。だけど、中途半端な気持ちで作りたくない。結婚ってやつのことを考えました。彼女のことを考えました。それで、じつは、結婚のことを考えるのをやめました。彼女が、彼女の見つけた大切な人といっしょに歩くその生活に寄り添えるようなものを。そう考えることにしました。
指輪の交換のときまで不安でどきどきしていました。結婚式なんてしたことがないわたしが作ったものがものすごく浮いてしまわないだろうか、結婚ってものについてちゃんと考えられていない歪さが際立ってしまわないだろうか、と。
結果。結婚式は、すごくよかったです。彼女が大好きなものを盛り込んだ楽しい式でした。参列できてよかった。
不完全で不器用でハレの席ではちぢこまってしまうわたし。そんなわたしが約束を乗せて運ぶものを作っていいのかなって思ったけれど、きっとそんなわたしだからずっと仲良しでいてくれたっておもってます。これから愛情が、その時々で形が変わって円になっていなくても、星でもハートでも稲妻でも、そうか、それはそれで楽しいかたちなんだ。そんなふうに思えた結婚式で、わたしはまだ、結婚というものはよくわからないけど、わたしはまた、彼女のことが大好きになったのでした。